テレビドラマにAIが入る時代、私たちは何を信じる? — フィクションとニュースの境界線
2026年11月、フジテレビは2027年10月をめどに、制作するすべてのドラマで生成AIを活用できる体制を目指すと発表しました。放送中の『救命病棟24時』では、爆発事故のシーンで、AIで作った架空の空撮風の映像が使われたといいます(ニュース記事はこちら)。
これから私たちが見るドラマや映画、CMには、AIで作られた映像がどんどん増えていくでしょう。それは、見る側にとってどんな意味を持つのでしょうか。
ドラマのAI映像は「問題」なのか
結論から言えば、ドラマでAIの映像が使われること自体は、問題ではありません。
ドラマはもともとフィクション(作り話)です。これまでも、セットやCG、特殊効果、編集など、あらゆる技術を使って「本物らしく見える作り物」を作ってきました。
| 時代 | 「本物らしく見せる」技術 |
|---|---|
| 昔 | セット、ミニチュア、特殊メイク |
| 少し前 | CG、合成、デジタル編集 |
| 今 | 生成AIによる映像 |
生成AIは、この流れの延長線上にある新しい道具のひとつです。爆発事故の現場を実際に作ったり、ヘリコプターで空撮したりする代わりに、AIで映像を作る。それは、表現の幅を広げ、制作の負担を減らす工夫と言えます。
では、何が問題になりうるのか
問題になりうるのは、フィクションと現実の境界があいまいになるときです。
ニュースや報道での使用
ドラマなら「作り物」だとわかって見ていますが、ニュースや報道番組は「本当のこと」を伝えるものです。もしニュースでAIの映像が使われ、それが本物の映像のように見えてしまったら、視聴者は事実を誤解してしまいます。
切り取られて広がる映像
ドラマのAI映像が、SNSで切り取られ、文脈を失って広がることもありえます。「本物の事故映像」として拡散されてしまえば、デマの原因になります。
実在の人や場所を使った映像
実在の人物や、実在の場所で起きていない出来事をAIで作ると、その人や場所の評判を傷つけるおそれがあります。
作る側に求められること
映像を作る側には、次のような配慮が求められるでしょう。
- 報道とフィクションをはっきり分ける:ニュースでは、AIで作った映像を事実の映像として使わない
- 必要に応じて表示する:AIで作った映像であることを、視聴者にわかるようにする
- 実在の人や出来事を扱うときは慎重に:誤解や名誉の毀損につながらないようにする
- 電子透かしなどの技術を活用する:あとからAI映像だと確認できるようにする
見る側に求められること
一方で、見る側の私たちにも、新しい習慣が求められます。
1. 「どこから来た映像か」を気にする
テレビ局の公式な番組の中で見る映像と、SNSで流れてきた出どころのわからない映像は、同じ映像でも信頼度がまったく違います。
2. 驚く映像ほど、一呼吸おく
衝撃的な映像を見たときこそ、「これは本当に起きたことなのか」「ドラマや広告の一部ではないか」と考える習慣をつけましょう。
3. 「AIだから嘘」とも決めつけない
逆に、本物の映像を「どうせAIだろう」と決めつけてしまうのも問題です。AIの映像があふれると、本物まで疑われるようになります。大切なのは、決めつけずに確かめる姿勢です。
映像の確かめ方は、「ディープフェイクにだまされないために」で詳しく紹介しています。
映像の仕事はどうなる?
もうひとつ気になるのが、映像を作る人たちの仕事です。
AIで映像の一部を作れるようになれば、CGや撮影の仕事の一部は減るかもしれません。一方で、フジテレビの事例では、撮影前に完成イメージをAIで作ってスタッフ間で共有するという使い方も紹介されています。これは、人の仕事を置きかえるというより、チームの意思疎通を助ける使い方です。
AIをどう使うかで、映像の仕事の未来は大きく変わります。人がもっと創造的な部分に集中できるような使い方が広がることを期待したいところです。
まとめ
- ドラマでAIの映像が使われること自体は、これまでのCGや特殊効果の延長線上にある
- 問題になるのは、フィクションと現実の境界があいまいになるとき
- 作る側には、報道とフィクションを分け、必要に応じて表示する配慮が求められる
- 見る側には、出どころを気にし、決めつけずに確かめる習慣が求められる
AIの映像は、これから私たちの身の回りに当たり前のように存在するようになります。「すごい映像だな」と楽しみながらも、「これはどこから来た映像だろう?」と考える目を持つこと。それが、AI時代の映像との上手な付き合い方なのかもしれません。